教育インタビュー「10億件を超えるデータから導いた、算数が苦手にならない子どもの育て方」

【こちらの記事は全文無料で読めます】

子どもが将来、「理系が得意」「数学が好き」と思うには、一番最初の入口である「算数」の学びが特に関わってきます。この算数を理解できないまま進んでいくと、子どもの多くが高学年の頃には算数に対して苦手意識を持ち「算数が苦手だ」と思うようになってしまいます。

そうならないために、どのような学習法が必要なのか? 幼児から小学生向け算数教材で10億件のデータを収集し、様々なカリキュラムや指導法を生み出したRISU Japan(リスジャパン)株式会社代表取締役の今木智隆さんに「算数が苦手にならない」子どもの育て方についてお話しを伺いました。

 

今木智隆さん

__一般的な算数や数学は、「計算能力とスピード」に重点をおいた取り組みが定着していますが、その取り組みが子どもに誤解を与え、苦手に繋がっていると今木さんは指摘されています。これは具体的にどのような問題がおきてしまうのでしょうか?

もっともわかりやすいのは、「計算能力とスピード」だけに重点をおいて算数や数学を行うと、ある段階で成績が上がらなくなる場合があるということです。計算の知識だけを積み重ねていくと、問題が難しくなったり少しでも複雑になったりした時に、「その問題が本当に要求していること」が分からなくなってしまうんですよね。

その例として、計算だけを練習している人は文章題ができなくなりますね。それは計算力の強化に囚われるあまり、根底にある「思考力」が身についていないからです。

__「思考力」を伸ばすには、親としてどのようなことができるのでしょうか?


思考力を伸ばす種は、教科書や算数ドリルだけではなく、日常生活の中に多くあります。例えば、お子さんと買い物をした時はお釣りを一緒に計算できます。あるいはアナログ時計を家に設置して、それをみて「おやつまであと何分だろう?」と聞いてみるのもいいでしょう。

そのように生活から問いをスタートさせると、計算だけにとどまらない思考力を伸ばすことができます。おうちの方が「算数は積み重ねである」ことをよくよく認識することも重要です。

__今木さんは、算数は大きく「位」「単位」「図形」の3つの分類を意識した学習が、算数を苦手にさせないカギだとご紹介されています。3つに分類させることは、子どもにどのような算数理解を促してくれるのでしょうか?

単元ごとのつながりを意識して算数を学ぶ(=系統性を意識する)ことにより、小学校では指導要領の都合上バラバラ・飛ばし飛ばしで学んでいた知識がスムーズにつながり、「算数って楽しい!」と思ってくれればいいなと思っています。

算数を系統的に学ぶとはすなわち、算数をRPGのように学ぶということです。ボス(=難しい問題)に向かって、それを倒すために必要な道具や呪文、装備などを揃えていく(=必要な知識を系統的に学ぶ)。今の小学校の算数では、そうした目的を持ったつながりがなく、算数を攻略して知識を広げていく本当の楽しさを知ることができないと思います。

この系統性を意識することが、子どもが算数を得意になるための一つのカギだと思っています。そこで、RISUではこの系統性を意識させやすいように、「かず」「計算」「図形とグラフ」「単位」という4つの単元を軸にして、それぞれのステージごとに学習を進めるステージ構成になっています。逆に、単元の基本的な部分ができていなければ、応用ステージへ進むことができないので、必然的に算数の学力を積み上げることができるのです。

__算数をRPGのように学ぶ! 子どもたちはゲームが大好きなので楽しく学べるでしょうね。



__今木様の著書 『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』 では、統計的に調査されたデータをもとに、子どもが算数でつまずくところワースト5まで詳しくご紹介されています。ワースト1は小学校1年生~2年生の「2~3桁の位の理解」と、算数の最初でつまずいているという意外な結果ですが、なぜつまずいてしまうのでしょうか?

そもそも「位」というものは意味が捉えにくく、学校で習うまでに多くの子ども触れることの少ない言葉です。そんな言葉が、教科書では説明なしに、いきなり登場するので戸惑ってしまうのは当たり前といえば当たり前ですよね。

「位」は「ある序列の中での位置」を表す言葉ですが、もっとやさしくいえば「場所」のことです。数が置かれる「場所」を表しているのが「位」です。このように、そもそも「位」の概念は非常に抽象的なので、子どもは具体的にイメージすることができません。

それにもかかわらず、位の学習は学校でもさっと学習して終わりです。十の位ぐらいであればなんとなくできてしまう子どもも多いですし、 「今は理解が浅くても、そのうちわかるようになるだろう」と先生自身が考えていることも多いからだと思います。

__なるほど。教える側もなんとなく教えていることが、子どもの苦手に繋がるのですね。親として「2~3桁の位の理解」を子どもに理解してもらうために、どのようなことをすれば良いでしょうか?

もし、お子さんが「位の概念」をよくわかっていないようなら、お金を使った学習をオススメします。お金は子どもにとっても身近ですし、手に取ることができるため理解しやすくなります。あるいは、ビーズにひもを通したり、袋にひとまとめにしたりなどで数のかたまりをつくってみるのもいいでしょう。重要なのは、抽象的な数の概念を、具体的な「物」に置き換えて子どもに見せてあげることです。そうすると、子どもにとって「位」や「大きな数」がぐっと身近になるでしょう。

__今木さんは算数(数学)の学習で必要なことは「学年」ではなく「前後のつながり」とお話しされています。学習指導要領にそった学年別の学習は、どのような問題点があるのでしょうか?

小学校6年間で学ぶ単元の一覧表を作ってみると、おかしなことがわかります。例えば「たし算」の単元は、1年生から3年生まで、3年間に及んでいる。その他、「図形」や「単位」など大きな単元のほとんどが複数の学年にまたがって、細切れに学習されるのです。

小学校の学習では1年に複数の単元を学習するため、途中でどの単元のどの部分が苦手だったかがわかりにくくなってしまうんですよ。それが小学校での算数学習の大きな問題点だと思っています。

__算数の学習を子どもが嫌がったり、やる気をなくしてしまった時に、親はどのような行動ができるでしょうか?

非常に短絡的に聞こえるかもしれませんが、「ご褒美を活用する」というのが一番良いと思います。RISU算数でも、このご褒美のシステムを活用しています。

しかし、ご褒美の出し方にも注意が必要です。ダメなご褒美のあげ方、それは「終わらせること」にご褒美をあげってしまうことです。「ドリルを終わらせる」とか「宿題を終わらせる」ことにご褒美を出してしまうと、そればかりに気をとられ、課題を進める本当の意味を子どもは見失ってしまいます。

子どもは良くも悪くも正直なものですから、ご褒美が出た場合はそれに向かって一直線に進みます。しかし、ゴール地点を誤ると、間違った方向にどんどん進んでしまいます。

子どもにとって意味のある学力を付けさせることができないのです。そればかりか、間違ったご褒美は子どもがズルをしたり、はしょったりする原因にもなってしまう。プラス面とマイナス面の両方があるのです。

__良いご褒美のコツはあるのでしょうか?

正しいご褒美のあげ方はこのようなもの。

「〇〇のドリルが全部マルになったらマンガを買ってあげる」

100点満点という「実力」にご褒美を与えるわけです。そうすれば子どもはドリルを早く終わらせることだけに集中しません。

満点を取りきるため、課題にしっかりと取り組み、間違えた問題の復習もしっかりと行うでしょう。RISU算数もこのような仕組みに基づいてご褒美(プレゼント)と交換できる「がんばりポイント」を用意しています。

また、勉強へのモチベーションを上げるには、逐一子どもを褒めることも重要です。簡単な問題でもできたら褒める、少しでもドリルが進んだら褒める、そもそも自ら机に向かっていたら褒めるなど、監視にならない範囲で子どもを見守りつつ褒めて伸ばす姿勢を意識するといいでしょう。



__今木さんが都内で経営をされているRISU Japan(リスジャパン)の理念は「才能あふれる世界を創り出す」とのことですが、この理念を掲げた理由をお聞かせください

それは私の経歴にも関わります。私が新卒で就職したのはコンサルティング会社でした。とにかく顧客中心主義で、そこで必然的に「人」に興味を持つようになりました。その後、同じ会社でマネージャーになり、後輩と接する中で、その接し方次第で人の成長度合いが変わることを強く体感しました。そこで、「人を育てる」ことに興味を持ったんですね。教育は人の根幹なので教育を変えれば世界が変わる。

でも、実際の教育現場を見るといまだに100年前から変わらず集団授業をやっているんですよ。現在はより進んだモデルをつくる技術もあるのに、です。そんなひらめきが重なり、教育の世界に飛び込んだという感じです。人は多様で、人それぞれに伸びしろがあると思い、「人の才能を開花させる」ということをテーマにRISU Japanを設立しました。

ですから最初は「人を育てる」ということに興味があったので、特段「算数」を意識はしていなかった。算数を主体とした塾に決めたのは、僕の価値観が大きいです。僕は、人生において価値観が大きく変わるのが幼少期と、社会人3年目くらいまでの新入社員の時期であると考えています。そこでまず僕は幼児教育を考えました。

一般向けにはオンラインタブレット教材の「RISU算数」、RISU塾、ロボット・プログラミング教室の3つの事業を展開していますが、今はどれも未就学~小学校6年生の子どもが学んでいます。

__RISU Japanの理念のように「才能あふれる世界を創り出す」ための様々な取り組みをされていますね。具体的にどのような反響があるのでしょうか?

SAPIXや四谷大塚など、中学受験の集団塾の成績第一主義になじめなかった人でも、RISU塾だと一人一人にカスタマイズされた丁寧な学びが提供できるので、成績至上主義になじまなかった子も、勉強へのやる気を取り戻すことがあるようです。一人ひとりにあった学びが活きる瞬間をRISU塾で経験できているようです。

それと、RISU塾の蔵書には、『寄生獣』などもあるんですが(笑)、こうした漫画を小学校低学年から読んでいたりする子もいます。このような漫画とかって、今だと過剰に規制されるんですが、これらを読むことを経験するのも、我々は比較的ポジティブにとらえています。

ある意味で大人が子どもを一方的に型にはまらせない。行き過ぎた暴力にならなければ読むのもアリだと思っているんですよね。これは、他の塾との大きな違いの一つだと思いますが、ありがたいことに好評を得ています。

__新型コロナウイルスの影響により、小学校1~2年生向けのオンライン授業「RISU小学生オンラインスクール」を4月27日から5月末まで無償で実施されました。今後、日本でもオンラインの授業は大きく見直されると思いますが、オンライン授業のメリット・デメリットを教えてください。

もちろん、子どもが好きな時間で好きなように学習ができることはオンライン授業最大の利点でしょう。集団授業のように、周りの子どものスピードやレベルに合わせる必要もありません。いいことばかりに見えるオンライン授業ですが、その盲点も考える必要があります。

RISU USAでよく聞くオンライン学習のトラブルを例に紹介しましょう。RISU USAで主に問題になるのは、機材トラブルですね。特に低学年の子は機材のセッティングや、wifi接続といった授業準備が難しい。もちろん高学年でも持っている機材によっては繋がらなかったり、通信不良が起こります。いくら子どもがデジタル機器に親しんでいたとしても、実際にそれを使ってコミュニケーションする段になるといろいろ問題が発生する。

それと、自分自身のタブレットやPCを持っていない子どもも当然いますから、そういう子は親の機材を使っていたりします。でも、それは親の仕事用PCだったりもして、必ずしもいつも使えるわけではない。

__どの家庭も平等に授業を受けるには、機材の確保や安定性が必要になるなど、課題が多いですね

それと、家庭にwifiがあるかどうかも重要なポイントで、RISU USAでは、家庭にwifiが無いという理由でRISU USAをやめてしまった子もいます。そして、それらの背後にあるのが金銭的な問題です。経済格差と学習機会の問題とでもいうべきでしょうか。

RISU USAに関しては、比較的裕福な人が受講しているのでそこまで金銭的な問題が浮上することはありません。でもアメリカの他の教育の状態などをみていると、公立学校のオンライン化は問題が多いと思いますね。

当然その中には生活保護を受けている世帯の子もいるわけですから。機材面で大きな障壁があります。RISU USAも格差是正のためにPC等を一部の家庭に貸し出しています。

これらはアメリカでの問題ですが、日本でも優に浮上してくる問題でしょう。そもそも、YouTubeで無料の授業動画を見るのだって、最低限PCやタブレット、それからwifiがないといけません。そもそも、オンラインの世界に入るためにもお金が必要なわけですから。それをどう考えるかですね。



__今木さんは奈良の東大寺学園中学校へ入学されるなど奈良と縁があります。奈良で過ごした学生時代で特に良かったことがあれば教えてください。

奈良の学校でよかったと思うのは、やはり歴史の層が厚い街で学生生活を送れたことですね。学生の間には、東大寺学園卒業生の縁で東大寺の記念式典に出席しました。大仏様に上ったり、和装で伝統行事に参加できたりと、普通ではできないことが経験できました。そういう伝統がある街で学べたことはいい経験になっています。

__学生時代の学びは、現在の今木さんにどのような影響を与えてくれたのでしょうか?

これは非常に個人的な話ですが、東大寺学園って校舎が山の上にあるんですよ。だから、通学するだけでとても体力が付いて、結果大学の受験勉強にその体力が活きてきましたね(笑)それと真面目な話としては、通学時間が長かったこともあって本がたくさん読めたことも今の私の血肉になっています。

また、先生が自由だったこともいい思い出です。良い意味で教育課程に縛られない自由な校風での学びは、様々な発想力が求められる現在の仕事にもつながっています。

__今後、未来の構想・目標などございましたら、お話しください。

まだ言えないですが、今年ちょっといい感じのものが着々と進んでいます。どの事業もRISU Japanの社是である「才能あふれる世界を作り出す」ための事業になっていると思います。プレスリリースをお待ちください!

今木智隆(いまきともたか)
「学びのベーション」編集長。RISU Japan株式会社 代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、デジタルマーケティング専門コンサルティングファームのビービット入社。金融・消費財・小売流通領域のサービスに従事し、2012年から同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した幼児から小学生向け算数教材で、のべ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。国内はもちろん、シリコンバレーでもハイレベル層から、算数やAIの基礎知識を学びたいとオファーが殺到している。著書に『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』(2019年 文響社)。

この記事は無料会員限定コンテンツです。続きをご覧になりたい方は会員登録またはログインをお願いします。

この記事の残り文字数:0文字

会員登録して続きを見るログインして続きを見る
お気に入りに登録

関連記事

クリエイティブ・アド|第3回最優秀作 制作者インタビュー

クリエイティブ・アド|第2回最優秀作 制作者インタビュー

クリエイティブ・アド|第1回最優秀作 制作者インタビュー

教育インタビュー「2万人以上の子どもを笑顔にした、伊藤美佳さんのモンテッソーリ子育て法」